組織戦略の考え方−企業経営の健全性のために

沼上幹著「組織戦略の考え方−企業経営

バブル期には絶賛された日本的経営も、いまや全否定の対象とすらなる。だが大切なのは、日本型組織の本質を維持しつつ、腐った組織に堕さないよう、自ら主体的に思考し実践していくことだ。本書は、流行りのカタカナ組織論とは一線を画し、至極常識的な論理をひとつずつ積み上げて、組織設計をめぐる多くの誤解を解き明かす。また、決断できるトップの不在・「キツネ」の跋扈・ルールの複雑怪奇化等の問題を切り口に、組織の腐り方を分析し対処する指針を示す。自ら考え、自ら担うための組織戦略入門。

ポイントを抜粋。

  • 管理者・経営者たちが目先の例外処理に忙殺されると長期的なことができなくなってしまう。だから官僚制組織は必要。
  • 会社における意思決定プロセスのボトルネックは、収集・分析された情報をもとに「選択」するプロセス。「選択」を担当する管理者を邪魔してはいけない。
  • 組織構造自体は何も解決しない。組織の機能は「人」次第。
  • マトリクス組織には、相反する価値の葛藤を解消するという高度な作業を経営者層が放棄しミドルに押し付ける危険がある。
  • マズロー学説に対する関心は最上位の自己実現欲求に集まり過ぎ。その前段階の所属・愛情欲求や承認・尊厳欲求が本当は大事。
  • 組織内のフリーライダー
    • 職場の雰囲気(人間関係)を維持する努力をしない社員
    • 若手育成に努力しないミドル
    • 「厄介者」や社内野党を叱りとばさない「優しい上司(先輩)」
  • フリーライダー問題を解消するには、少数のコア人材に権限とインセンティブを与えエリート化し、集合財生産を任せる。
  • 決断不足の兆候。
    • 全方位・全面戦争型企画の多発
    • 経営改革検討プロジェクトの乱立
    • タイムスパンのずれた人材育成プログラムの提案
  • 決断不足を解決するには
    • とにかくトップが決断し多数の検討委員会の数を減らす
    • 仕事のできるエースには本当に決断を必要とする重要な仕事しか回してはいけない
  • 「落としどころ感知器」として出世した決断できない人たちがトップとその周辺を固めている会社は救いようがない。
  • 育ちのよい優等生の「大人」が多数を占めると「厄介者」の権力が生まれ組織が疲労する。
  • 当事者が直接話し合わずに調整専門のポストを作ると、トラの権力をでっち上げるキツネの権力が生まれる。
  • 意識が内向きになると「宦官」のような奇妙な権力が生まれる。それを防ぐには、トップマネジメントの数は3〜4名にとどめ「ヒソヒソ話」の発達を抑える。
  • ルールが複雑怪奇化すると、ルール運用のプロである「宦官」が有利になり、利益を稼ぐ「武闘派」が不利になって、組織が腐敗する。
  • 成熟事業部に秀才が集まり仕事遂行能力に余剰が出てくると、周りの人間の批判をし始め、それを受けてプレゼンの質を過剰に高くしたり些末な改良研究に時間を割くなど内向きの仕事ばかりが増え、組織が腐敗する。